がんの超早期発見最前線 わずか一滴の血液でがんを早期発見

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2015年6月30日、NHKクローズアップ現代「あなたのがん 見つけます~超早期治療への挑戦~」にて、がんの超早期発見技術の最前線について特集がありました。

いまや2人に1人が将来がんになり、3人に1人はそのがんで命を落としていると言われています。

これまでの医療は、がんの治療に重点を置いてきたわけですが、近年の遺伝子解析技術が進むことによって、がんは“治療する”のではなく、“予防する”という次のステージに向かいつつあるようです。

今回は、この“超早期発見技術”について、まとめてみたいと思います。

がんの超早期発見技術の確立を目指す国家プロジェクト

近い将来、たった1滴の血液から13種類のがんを発見できるようになる

という、夢のような技術の実現を目指し、ある国家プロジェクトが動いているそうです。

これは、最先端の遺伝子研究をもとに進められているプロジェクトで、『体液中マイクロRNA測定技術基盤開発』と呼ばれており、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と国立がん研究センター、全国の9つの大学、そして、東レ、東芝などの6つの民間企業によって2014年からスタートしています。

5年後の2018年までに、がんの早期発見システムの実用化を目指しており、年間予算約16億円、5年間の総予算は79億円という、まさに国家的ビックプロジェクトと言えるでしょう。

2015年の夏には早くも、乳がんと大腸がんの早期診断の試みを開始する予定だそうで、同プロジェクトの超早期発見技術を用いた解析では、なんと99%以上の感度と特異度で乳がんを診断でき、直径3mmの乳がんも診断できたといいます。

プロジェクト参加企業・大学

  • 独立行政法人産業技術総合研究所
  • 独立行政法人国立がん研究センター
  • 独立行政法人国立長寿医療研究センター
  • 東レ株式会社
  • 株式会社東芝
  • 特定非営利活動法人バイオチップコンソーシアム
  • 一般社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム
  • プレシジョン・システム・サイエンス株式会社
  • アークレイ株式会社
  • 国立大学法人京都工芸繊維大学
  • 国立大学法人大阪大学
  • 学校法人東京医科大学
  • 公立大学法人大阪市立大学
  • 国立大学法人東京医科歯科大学
  • 国立大学法人九州大学
  • 国立大学法人名古屋大学
  • 国立大学法人群馬大学
  • 国立大学法人広島大学

がんを超早期発見するための技術とは?

たった1滴の血液から、超早期がんを発見するための技術とはどんな技術なのでしょうか?

同研究グループが注目しているのが、がんの増悪にかかわる物質である「エクソソーム(exosome)」です。

このエクソソームとは、さまざまな細胞が分泌し放出する粒子で、細胞間の情報伝達などに関わっている物質だといいます。

がん細胞は、このエクソソームを自らの分身とし、この粒子を操って「マイクロRNA」という物質を運び、正常な細胞に働きかけることでがんを発症させたり、転移させるのだそう。つまり、エクソソームは、このマイクロRNAを運ぶまさに“箱舟”の役割を担っているといえます。

マイクロRNAは、20個前後の少数の塩基からなるRNA(リボ核酸)で、人間の体内には2578種類ものマイクロRNAが存在しているそうです。

がんを発症すると、がん細胞からごく初期の段階で特有のマイクロRNAが出るのですが、がんができる臓器によってマイクロRNAのタイプも違うため、血液検査でがん特有のマイクロRNAの有無を検査することによって、その人がどんながんにかかっているのかが特定できる、という夢のような技術なのです。

同プロジェクトでは、各臓器ごとに5000例以上、計6万5000例以上のがん患者の血液試料から、マイクロRNAに関するデータベースを構築し、2015年の夏には、乳がんと大腸がんに関するマイクロRNAが特定される予定だそうです。

さらに今後は、胃がん、肺がん、食道がん、肝臓がん、前立腺がん、すい臓がん、ぼうこうがん、卵巣がん、胆道がん、神経膠腫、肉腫の特定を目指しています。

こうした、エクソソームやマイクロRNAを用いたがんの早期発見技術や個別化医療の研究には世界中が取り組んでいます。

米国ではオバマ大統領が総額1,700万ドルを投じることを表明し(2013年8月)、各種がん、骨髄疾患、心臓疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症などの疾患研究、診断、治療への応用を視野に技術開発をリードする決意を示しています。

遺伝子による予知予防法に取り組む2社のベンチャー企業

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究と同じように、血液検査によってがんの有無を判定する技術を持ったベンチャー企業が2社あるといいます。

株式会社キュービクス

そのうちの1社は、「株式会社キュービクス」。2004年に金沢大学の医療系バイオベンチャー企業としてスタートした会社だそうです。

同社では、わずか2.5ccの血液を採取するだけで、胃がん、すい臓がん、胆道がん、大腸がんの4つの消化器系のがんを発見する技術を持っており、進行度が初期段階のステージ1でも発見することが可能だといいます。

しかも検査精度も高く、陽性判定が正しかったことを示す「感度」は98.5%、逆に陰性判定が正しかったことを示す「特異度」も約93%という高いレベルを保っているそうです。

キュービクス社の血液検査キットでは、体内にがんがあると、血液中のある一部の遺伝子ががんを攻撃する、という点に注目し、採取した血液細胞ががんに対してアタックしているかどうかを遺伝子レベルで判定することで、がんの有無を判断するそうです。(検査費用は6~10万円程度)

株式会社ジーンサイエンス

もう1社のベンチャー企業が、「株式会社ジーンサイエンス」です。

同社では、「CanTect」という「がんのリスク評価」を行っており、自分が将来がんになる可能性がどのくらいあるかを測定し、がんを発症させないための生活習慣を改善するアドバイスをするなど、遺伝子を使ったがんの予防法に取り組んでいます。

一般的な遺伝子検査では、親から受け継いだ先天的な遺伝子情報を分析し、がんにかかるリスクを調べるわけですが、この会社では、日常の食生活などによって常に変化する、後天的な遺伝子の発現状況を調査し、がんのリスク評価を行っています。(検査費用は8万円~15万円程度)

自らの血液が新型抗がん剤に!?

遺伝子研究によって、がんの超早期発見技術が研究されるなか、「がん治療」においても注目されている技術があるといいます。

それは、寶酒造株式会社のバイオ事業としてスタートした「タカラバイオ株式会社」の「T細胞受容体(TCR)遺伝子治療」と呼ばれている治療法です。

これは、がん患者から血液を採取し、血液中にあるリンパ球にがんを認識できるTCR遺伝子を注入します。この遺伝子をいれたリンパ球を体外で培養して数を増やし、再び患者の体内に戻すのです。

体内に戻されたリンパ球はがん細胞を認識して攻撃することによってがん治療をする、という自らの血液から作られた新型抗がん剤というわけです。

もともとは自分の血液を使って、免疫力を高めたリンパ球を作っているので、副作用が極めて限定的だと思われる点が最大のメリットだといいます。

2021年度の商業化を目指しているとのことですが、1日も早く、手頃な価格で実用化してくれるといいですね。

超早期発見技術がもたらす弊害とは?

最新の遺伝子解析研究の成果がもたらした、がんの超早期発見技術ですが、問題がないわけではありません。

がんは早期の段階で発見すれば、根治も見込める病気ですが、この技術によってがんが早期発見されたとしても、そのあと精密検査を受けてもがんが発見されないケースもあります。

マイクロRNAが出ているので、がん細胞があるのは間違いないけれど、がんがまだ見えないレベルだと、その後の治療ができないわけです。

がんだけでなく、マイクロRNAによってアルツハイマー病などの発症リスクが高いことがわかったとしても、現時点で有効な治療法がない病気であれば、治療の施しようがないわけですから、人によっては将来発症するかもしれない病気に日々怯えながら暮らしていくことにもなりかねないわけです。

しかし、がんの超早期発見技術は、我々人類ががんと闘ううえで必要不可欠な技術(武器)であり、これによって今後より多くの命が救われるであろうことは疑いのない事実でしょう。

遺伝子解析研究は今後どこまで進み、どこへ向かうのか、ますます目が離せませんね。

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